ホフマン博士の手
先日の「京都賞」で、ウイリアム・フォーサイスさん以外に、2人の学者が選ばれていた。
一人は物理学者で、透明に見える物質を作り出した、ジョン・ペンドリー博士。
一人は地質学者で、地球の全球凍結やプレートの移動を探求されているポール・ホフマン博士だ。
共に80歳を超えるお歳だが、現役バリバリだ。
特に、地質学者のホフマン博士は83歳だが、講演自体もエネルギーに溢れており、今にも舞台を飛び降りて飛んで行きそうだった。
自分自身が選んだ道が大好きだと身体やその動作が物語っていた。
ペンドリー博士は逆に物静かで、「博士」という感じだが、言葉は創造に満ち溢れており、やはりご自分の道を極めようとされているのを感じた。
この物理の博士は、子供の頃から実験好きで、相当いたずらをしたらしい。
「今では警察が来るのでしませんよ」と冗談で観客を笑わせながらの説明は、畑違いの私にでも理解出来た。
晩餐会が終わり、別室で軽く飲めるらしいので、安藤洋子さん達と再会を祝して乾杯をした。
私の席からは見えなかったが、安藤さんの席からは地質学者のホフマン博士の姿が見えたらしい。
で、ホフマン博士の話になった。
やはり、皆博士の話や博士自身に魅力を感じていたのだ。
さすがの感性であり好奇心だ。
安藤さんが席を立ち、ホフマン博士に講演のお礼にいった。
この行動力が、全ての人に必要なのだ。
私は酒井ハナさんとバレエの話に夢中になっていた。
時間も経ち、そろそろお開きと立ち上がった時、ホフマン博士が目に入った。
「握手をして貰おう」博士の手に興味があったのは、私だけではなく安藤さんも「どんな手なのでしょう?」となっていた。
博士が部屋を出る前に、皆で握手をして貰った。
地質調査の為に北海道の面積くらいは一人で歩いたとおっしゃっていた。
岩や土を掘りながら削りながらだから、さぞかし逞しい手だと想像していた。
手は大きかったが、それは博士の体格が大きいので、そこから見るとそう大きくは無い。
驚いたのは、手の柔らかさだ。
この柔らかい手は、道具をちゃんと操れる手だ。
力任せのスコップ操作ではなく、考古学者のように繊細な物を扱う手だった。
プレートの移動や氷河期以上の全球凍結等、地球そのものの生命に対する研究だから、これほど面白いものは無い。
その博士の話から、身体に結び付くもの、人の生命や本能に結び付くもの、動きに結び付くモノはないかと、頭はフル回転だった。