手に職を付けているから

「手に職を付けなあかんで、それは誰にも盗まれないから」
そんな事を小学生の頃から、母や叔母に言われていた。

「手に職」単純には、職人さんだ。

でも、矛盾したことも言っていた。
「ええ(良い)会社にはいらなあかんから、勉強しいや(勉強しろ)」だ。
私は子供だから、ええ加減に「うん」と言っていただけだが。

母の言葉を守ったのかどうかは、全く記憶にないが、バーテンやドラマー、そして武道へと進んでいるのは、間違いなく「手に職」だ。

懇意にして貰っている原田医師の元には、それこそお年寄りが沢山来る。
そんなお年寄りを見ていて、充実した顔をしているのは、全員職人さんだそうだ。

台東区という場所柄、なんらかの職人さん達が多い。
そんな中で、奥さんが亡くなり一人で生活している職人さんも多いそうだ。
でも、その顔は充実しているという。

「孤独というのを感じた事ありますか」と医師が質問すると、「一度もない」と答えるそうだ。

それは何故か?そんな話でも盛り上がる。
どうして孤独を感じず、しかも充実した顔をしていられるのか?だ。

きっとそれは、「仕事をしているから」「仕事を通してお客さんと接しているから」ではないかと一応結論付けた。
仕事をしているというのは、仕事で工夫を凝らすという事や、お客さんの役に立っている、良い品物を提供しているという自負がある事だ。
「誰かの役に立っている」そこが一番のポイントだろう。

「私は仕事をしている」と思う人がいたとすると、きっと同じ状況でも、良い品物で「お客さんの笑顔を見たい」、と思う人とでは充実度が変わると思う。
「私が」ではなく、「誰か、お客さん」そこがミソだ。

「仕事」ということでは、子供は仕事が好きだ。
大人の真似をして、何かしらの動きをする。
お母さんが台所で動いていると、その真似をする。

きっと人は「仕事」が好きなのだ。

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