気持ちが言葉になった、それが本当に嬉しかった。何十年もこんな感覚になった事はなかった。

こんな嬉しい事には、何十年も巡り合っていないのではないか。
単に見知らぬ人と一言二言言葉を交わしただけなのだが。
純粋に「気持ちが言葉になった」事が本当に嬉しかった。

東京に帰る新幹線。
歯科医院で仮歯を入れて帰京。
駅弁を買い乗り込んだら、結構込んでいて隣の席も埋まった。

隣の男性は、白髪の具合から私と同年齢と思われた。
取り敢えず駅弁を食べて寝る事にした。
隣の男性も駅弁を出して食べだした。

私としてはかなりゆっくりの食事ペースだ。
「仮歯だから前歯では絶対に噛まないように」と歯科医に言われていたからだ。

隣の人とほぼ同じくらいに弁当を空っぽにした。
お茶を飲んでゆっくりしようとしたら、隣の人が弁当箱を捨てに席を立った。

立った男性が私を見て「ついでに捨ててきましょうか?」と声を掛けてくれた。
私は思わず「ありがとうございます。甘えさせて貰います」と弁当箱を差し出した。

こんな嬉しい事には、何十年も巡り合っていない。

東京に到着し、その男性に「お世話になりました。ありがとうございました」と告げると、「いえいえ」とニッコリ笑顔を見せてくれ、そのまま降りていった。

ごく普通に、ごくごく普通に見知らぬ人との会話が出来た。
私から声を掛けて、というのはあるが、向こうさんが私にアクションを起してくれた事が本当に嬉しかった。
「こんな嬉しい事はない」
身も心も浮いた感じになった。

まだ、日本にも普通の人がいた。
それが嬉しかった。

富士山

Follow me!