そうだろな
映画の中で使われている台詞には、優れた言葉が沢山ある。
ショーン・ペイン扮するカメラマンが、ヒマラヤの雪豹を追って尾根から出てくるのを待っているシーンで、アメリカから彼を探し求めて辿り着く主人公。
雪豹を現地では幽霊猫というそうだ。
そこでの会話中雪豹がフレームに入ってくる。
主人公が「シャッターを押さないのか」
「僕はカメラに邪魔されるのが嫌なんだ。今、この瞬間を味わいたいから」
職業から言えば、何を寝ぼけた事言うてんねん、だが、一人の人間としては「そうだろうな」である。
そんな一瞬を持てる感性を、人の何かが豊かだと言う。
人それぞれの一瞬だ。
そんな一瞬は、何年に一回、あるいは、何十年に一回かもしれない。
あるいは、人生で一回かもしれない。
無いかもしれない。
しかし、日々日常的にあるのかもしれない。
その捉え方も人それぞれである。
もしかしたら、私は写真を撮るのが嫌いなのかもしれない。
フォーサイスカンパニーで彼等と過ごす時間の中で、絵になるシーンにいくらでも遭遇する。
後から、あの時カメラを構えれば良かったと思う。
しかし、その時間や空気感の中にある方が好きなのだ。
一歩引いた状態になるのは嫌なのだ。
絶対に取り戻せない、絶対に再現できないその時、その中に居るのが好きだ。
そして、それが消えてしまうのが何とも心地よい。
まるで、タイムマシンから降りたような感じになるのが心地よいのだ。
だから、思い出に残すのも大嫌いだ。