パトリック・チャン選手は
ドスンという大きな音が二度三度。
驚いて窓をのぞくと、屋根に積もった雪が、大きな音ともに下に落ちたのだ。
大体50cmくらいは積もっているので、滑り落ちたら相当な音がする。
雨に変わって来ているので、明日は全部溶けてしまうだろう。
でなかったら、田辺に出るのが一苦労だ。
パトリック・チャン選手の昨日のショートプログラム。
羽生選手の演技の後で、会場は羽生選手の余韻が充満していた。
チャン選手が所定の位置に付き、いつもより長く静止していた。
演技が始まった途端、場内はチャン選手の世界になっていた。
これは、表現という事では非常に大事な瞬間だ。
いわゆる「つかみ」だ。
まず自分自身に観客の視線を集める、集めてから演技を始める。
フィギアスケートの場合、舞台ではなく、つまり緞帳が無く、板付き状態なのだが、それも観客の視線に晒されている。
その意味では、余程自分自身で作り込んでいなければ、観客の視線を集めること、観客を集中させることは出来ない。
そこで、チャン選手は静止状態を作った。
もちろん、プログラムとして静止状態から始まるようになっている。
今回のプログラムを初めて見たとき、上手いこと作っていると思った。
その静止状態で、観客の視線を集める事、自分の演技に集中させることが出来るからだ。
これは、私の「表現塾」では常に教えていることだ。
ただチャン選手は、静止していたのは確かだが、それは動的な静止で意識までは静止していなかった。
もちろん、そんなことは知らないのだから仕方が無い。
舞台として必要な静止は、意識を止めてしまうことだ。
つまり、雑念が一切無い状態、思いが頭に一切無い状態だ。
それが、観客の空気や視線、意識までも自分に集中させるのだ。