ジャズの武者修行
「遊び」がどんどんエスカレートしていくと、全く別のアイディアが浮かんで来ることがある。
きっと、行動を縛っている要素がないからだ。
「遊ぶ」とはそういうものだ。
ベーシストに言われた「日野君、もっと遊んで」は、後々考えると、ピアノトリオのパターンやそのベーシストが持つ遊びのパターンを、私が演奏しなかったからだろうと思った。
それを考えると、それはすでに遊びでもなければ即興でもない。
ただの「知っている事」「引き出しに入っている事」だ。
ある時、トラの仕事でアルトがボスのクァルテットだった。
そのアルトは、私のボーヤ時代から「凄いアルトや!」とある種憧れていた人だった。
さらに、ピアノは若手ではピカ一と言われていた奴だ。
面子を見て思わず身震いした。
もちろん、嬉しくてだ。
1回目のステージが始まった。
その辺りの詳しい事は忘れてしまったが、今でも覚えている事がある。
憧れのアルトのアドリブが終わりピアノに繋いだ。
そこから始まった。ピアノが難解なフレーズで攻めて来たのだ。
「おっと、いきなりかい」という感じで、単純だが数えにくいフレーズで応酬した。
ピアノも負けじとそこから展開、私もどんどんエスカレートしていった。
結局、最後はピアノと顔を見合わせて、「今、どこ?」とニヤリ。
そこにアルトが絡んで来て事なきをえた。
このやり取りは、コンサートなら観客が盛り上がるところだが、お酒を飲むナイトクラブでは何も起こらない。
でも、演奏が終わってからバンドのメンバーと盛り上がった。
これがジャズの武者修行だ。