フォーサイスカンパニー4

「では、正面向かい合い」というと、シリルもティルマンもヨ子も、みんな大喜びだ。
これをやるとほんとに瞬間的に空気が固まる。
初めてこれをカンパニーでやった時、皆は引いた。
それは対立という、潜在的に持つ何かが動くと感じたからだ。
しかし、私が向かい合ってやると、たちまちこのワークの虜になった。
民族の違いや民族の対立が、多民族カンパニーの持つ宿命だ。
それが「正面向い合い」で、見事に消え去ってお互いが「初めて人を見たかもしれない」と喜び合っていた。
涙したものもおり、その人達は私に深く感謝してくれていた。
そういった、初めての体験がカンパニーを結束させたのだ。
そして、舞台には必要不可欠の能力だと彼らは気付いてくれ、行く度に「リクエストは」と聞くと、決まって「正面向い合い」という。
今回は初心者もいるので、まずは1対1。
そこからから1対2、そして円陣になっての向い合いだ。
勝手知ったる者は、どんどんワークを進めていく。
カンパニーへ入った新しい人達は、戸惑いを見せるが、中でもロシア人は食らいついてくる。
シリルとヨネの向かい合いを見ていると、かなり密度が濃いので、新しい事を試みた。
という違う雰囲気が漂うと、他の連中は直ぐに気付き周りに集まってくる。
それが感度の良さだ。
完全にコネクトされているから、直接響くのだろう。
距離を空けた向い合いの真ん中に割って入るのだ。
但し、二人のコネクトを切断してはいけない。
という飛んでもなく難しい条件を与えた。
見本を見せると「OK」という、意思のない声が飛び交う。
「やってみるけど…でもね」という意味だ。
続いて一人の意識の流れに乗り、そこに入り込む、を6時迄取り組んだ。
というよりも、例によって6時になってしまっていたのだ。
もちろん、彼らは一流のダンサーだからタイミングで、流れに乗ったように見せることはお茶の子さいさいだ。
しかし、私がやってみせると、その違いを直ぐに分かり、工夫が始まる。
時々ティルマンが「How?」と口からでる。
私が「?」という顔をすると、「Sorry」と笑う。
こんな稽古を、こんな雰囲気の稽古を、ずっとしていたいとつくづく感じるフランクフルトだ。
朝10時30分頃スタジオに入り、あっという間に6時、あっという間に1日が終わる。これだけ時間が短いのは久し振りだ。
今日は、フランクフルトへ来て初めての晴天だ。
それこそ気分が晴れる。

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