二の舞
ホテルを出て、右に道路沿いを歩いて行くと、多分ブリュッセルの繁華街だ、ろう。
朝食を済ませ、歩く稽古に出た。
御堂筋よりもかなり幅広い道路は、中央が駐車場になっている。
その道路沿いに、これでもかというくらい世界のブランド店が並んでいる。
もちろん、私がブランドと知っている程度だから、超有名店ばかりである。
ホテルは坂の上にあるので、道はなだらかに下っている。
昨日までの雨はやみ、こころばかりの太陽が鉛色の雲間から顔を覗かせている。
しばらく歩いて「この辺りで右に入ればどこへ行くのかな」生来の迷走好きが始った。
すると、見知った光景に突き当たった。
昨年迷子になったところだ。
きれいにデザインされた庭がある。
事件はそこで起こった。
「ハンディキャップを持つ子供に支援をお願いします」
片言の英語が分かるばかりに、思わずその言葉を理解してしまった。
みなりの良い女性二人が、声をかけてきたのだ。
その時は、完全にフランクフルト事件を忘れてしまっていた。
以前、夜のフランクフルト中央駅のメトロで、やはりみなりの良い女性二人が両替をして欲しと声をかけられた。
こちらは、妻と通訳の女性の3人いる。
その数に油断して、「いくら?」と財布の小銭入れを開けて見せた。
まず、その一人の女は1ユーロコインを取りだした。
何やらぶつぶつ言いながら、私の財布の中にある小銭を、とっては入れを繰り返す。
小銭を掴む手がおかしい。
つまり、まだまだ素人なのだ。
プロのマジシャンなら、そうは見えない。
私は二人の女性の仕草を追いかけていた。
もう一人の手が伸びて来た。
もちろん、財布の方に、しかも札が入っている方にだ。
私は気付かないふりをして、「早く両替しろ」とせかせた。
札の入っている方に近づいた手は、あろうことかカードを抜きにかかったのだ。
私は何食わぬ顔をして、財布を持つ手に力を込め、カードも札も抜けないようにした。
女は焦りカードを引っ張る、もちろん、抜けない。
結局この二人はブツブツ言いながら立ち去った。
この事件を忘れてしまっていたのだ。
寄付と称して5ユーロまず女二人は受け取った。
すると、両替をするから10ユーロ出せと言う。
意味が分からないので、とりあえず10ユーロ札を見せた。
するとその10ユーロ札を持ちながら、寄付の最低は20ユーロだという。
「あほか、持っているわけ無いやろ」と言いながら10ユーロ札を取り返した。
女二人は、足早に去って行った。
5ユーロパクられたのだ。
まあ、これも私の間抜けな話題の一つだと、階段を下りていった。
すると、今度は逆にホームレスのような風体のおっちゃんが、「今のはスリだ」と教えてくれた。
「メルシー、オーボアといって相手にしては駄目だよ」良い人だった。
2時間以上歩き回って、ホテルに戻った。
ブリュッセルでの最後の日。
初めての人がまた沢山いた。
本当は丁寧にやりたかったが、古い人を優先し、胸骨操作を少ない目に、初日の肘の動きに発展させた。
次は4月だ。
「日野絶対に忘れたら駄目だよ」
主催者から何度も念を押され、深夜別れた。
明日は、朝7時過ぎの列車でパリだ。
第90回武禅一の行 3月21.22.23日
https://www.hino-budo.com/buzen4.html