もういっちょう

さらにヤニス達のことで言えば、幻想を完全に排除したことが、彼らそのものを際立たせた。
この幻想を排除する、というのは、フォーサイスカンパニーに始めて招聘された2005年に、皆に話した事だ。
観客が幻想を見るためには、演者に幻想があってはいけない。
演者のもつ幻想は、気持ちが悪いだけだと。
そして、演者の幻想は、身体の輪郭をぼかしてしまうという実際も見せた。
クサイ舞台と、そうではない舞台の話もした。
彼らは全員ショックを受けた。
しかしもちろん、どちらをとるかは自由だ。
ただ、過去数百年殆どの舞台は、演者の持つ幻想で培われてきた。
だからここらで本当のコンテンポラリーをやったらどうだ?と話したのだ。
そんな話に、一番最初に食い付いたのが若いマーツだった。
ヤニスやファブリーズは、その時は反応しなかった。
しかし、彼らのキャリアや時間と共に、そして、私が帰国後マーツと練習をする程に、その事が彼らに定着していったのだ。
私の誤算は、その事が彼らよりも早く日本で定着するのでは、と思い日本でのワークショップを繰り返したのだが、残念ながら、大方のダンサーは彼らよりもキャリアが浅く、ダンスにもダンスシーンそのものにも危惧を抱いていなかった事だ。
だから、きっと私の言うことは「何のこっちゃ」と受け止められているのだろうと思う。
まるっきり理解していないな、というのは、話していて薄々は感じていた。
しかしそれは仕方が無い事だ。
幻想を持つな、という私自身が、日本のダンサー達に幻想を持っていただけだから。
11月の末には、スエーデンの大学に招聘されているので、メソッドを教えに行く。
その後は、クルベリバレエ団と続く。
日本のダンサー達が、外国では貴重なメソッドになりつつある、連動や胸骨操作。
それらを駆使し、全く新しく幻想の無いクリアな舞台を展開してくれる日を夢見ているのだが。

Follow me!