「嫌い」に打ち勝つ力は負けん気だが、それは最低の体験が生み出してくれるのだ
「嫌いに打ち勝つ力」だが、私の場合は「出来なければ気分が悪い」が発動する。
いわゆる「負けず嫌い」だ。
この負けず嫌いは、既に備わっていたのか後天的に備わったのかは分からない。
何時の間にかそうなっていたのだ。
負けず嫌いだと気付いたのは、中学生の頃、喧嘩で袋叩きにあい転ばされ、それこそ踏んだり蹴ったりの最中に「くそ~」となった。
その一件から、何かと負けず嫌いが表面化した記憶がある。
喫茶バーテンになり、珈琲を煎れるようになりたいと思った。
がしかし、見習いはジャガイモを剥いたり、ジュース用のリンゴの皮を剥いたりしかやらせて貰えなかった。
そのどちらも見習いには難しい。
ジャガイモはガタガタになるし、リンゴの皮は太いものになる。
「日野!誰がリンゴを削れというた!」と怒鳴られる日々が続いた。
当たり前だ。
リンゴの皮を剥いた事など無いのだから剥ける筈もないし、バーテンが剥く剥き方など出来る筈もない。
ペティナイフも使った事が無いので、指はあちこち切り傷だらけになった。
チーフが「リンゴは血で赤くなるやろ、それを剥いて練習したものや」と教えてくれた。
「それならそれをやったろか」と安月給全部をリンゴとじゃがいもに消えた。
もちろん、実家だったので出来た事だが。
仕事を終え、家に帰ったら自分様に買ったペティナイフでリンゴとジャガイモと格闘した。
チーフがいう様に、確かに親指から血が出てそれがリンゴに染みていった。
そんな事を毎日繰り返し、店でも洗い場をするか皮剥きをするかで毎日やった。
それが日課だし仕事だから仕方が無い。
どれくらい時間が経ったのかは忘れたが、その厨房でバーテンが7.8人はいたが、私が剥くのも刻むのも一番早く綺麗になった。
その調子で紅茶に付けるレモンも。
これは一個何枚と決まっているから、それ以上を狙った。
食パンも何枚か決まっている。
そういった事を全部クリアした頃、チーフからテストでコーヒーをたてさせてもらった。
40人前だ。
見様見真似でたてた。
チーフがバースプーンで味見をしてくれた。
たてたコーヒーが入ったポットを流しに持っていくと、40人前そっくり捨てられてしまった。
「日野君、こんな味お客さんにだせないで」と。
東京ワークショップ12月2.3.4日