一寸思い出した
この暑さで、ふと思い出した事がある。
祖母の葬式で、汗を流しながら突っ立っていた。
葬儀屋のおっさんが、うっとしそうに突っ立っているのが見えた。
「なんじゃ、あのおっさん」とムラっと来た。
葬式でその顔はないやろ、というやつだ。
叔父に「あのおっさん、いてまおか」と言うと「やめとけ、一緒や」てなやりとりがあった。
庭にある無花果の木で、アブラゼミセがうるさく鳴いていた。
まるで、映画の1シーンのように思い出した。
それを思い出すと、祖母の入院から死、そして、葬式と思い出した。
不思議なことにお通夜は、全く記憶に無い。
祖母の死から、家への安置への過程は、現代では考えられない程傑作なものだった。
母のそれも傑作だったから、もしかしたら、そんな家系かもしれない。
どんな傑作かと言うと、祖母は病院で死を迎えた。
この暑さだから、早々に家に安置を、ということだったのだろうと思う。
私と叔父と二人で、祖母を戸板に乗せて、家まで運んだのだ。
もちろん、普通に商店街を抜けて一般道路を、汗をかきながら運んだ。
一寸この体験はないだろう。
私が16歳だから、1963年、東京オリンピックの前の年だ。
何とも平和な時代だった。
母の傑作は、もっと傑作だった。