思い出

和歌山の山奥から、東京への自動車は還暦コンサート以来6年ぶりだった。
トイレ休憩を2回だけで、とにかく走った。
完全に氷点下の道場から、お昼には窓を開けて走っていたくらい、温度差があった。
しかし、飛行機にしろ新幹線にしろ、高速道路にしろ、どれも楽しくない。
只々点から点への移動をどれだけ早く出来るか、しかないからだ。
まあ、こちらもそれを望んでいるのだから、文句は言えないが。
16歳位の頃家出をし、巣鴨の中央市場で働いていた事があった。
そこはどの辺りか探したが、違う街に来たようでさっぱり思い出せなかった。
ところが、自動車で走り巣鴨の駅に近づいた時、右手にそこがあった。
区画整理か何かで規模は縮小されていたが、思い出の職場はあった。
八百屋で働いていた、埼玉のワルガキと知り合ったのもそこだ。
短い期間、そうそう丁度今頃だった。早
朝、市場には屋台が出ていて、そこで熱燗を一杯引っ掛けてから仕事をしたものだ。
午前4時はきっと氷点下だったろう。
そんな時代があったなどとは、今では夢の様な話だ。
誰もがこころに余裕など無く、窮屈極まりない。

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