初めての北アメリカ

昨年9月、生まれて初めて北アメリカに飛んだ。
JAZZをやっていた頃は、アメリカへ行きたくて仕方なかった。
憧れのジャズメン達に生の演奏を聴きたくてたまらなかった。
しかし、当時は1ドル360円。
無給のバンドボーイでは、お金の貯めようも無かった。
しかし、今となってはアメリカに行かなくて良かったとも思っている。
音楽の、ジャズの右も左も、良いも悪いも、何一つ自分の中で確立されていなかったのだから。
ただ、生の音に圧倒されただけだっただろう。
雰囲気に圧倒されただけだったろう。
そんなことがニューヨーク行きの飛行機の中で、頭を巡っていた。

今回のカナダ・トロントでのワークショップは、なんとトロント在住の日本人の鍼灸師が主催してくれたものだ。
私の考えを少しでも広げたいと思ってくれ、無謀にもワークショップを開催に踏み切ってくれたのだ。
こんな嬉しいことは無い。
主催するといっても、飛行機代から宿泊費と考えれば、どれだけの人数を集めなければいけないか。
そんな苦労を買って出てくれるくらい嬉しいことはどこにもない。
以前、スイスでのワークショップは、フォーサイスカンパニーにいたmartheが主催してくれた。
彼女もまた、そんなリスクを負ってくれた一人だ。
個人のそんな動きがほんとに有り難い。
感謝と言う一言では片付けられない。
しかし、人の出会いと言う不思議に感謝だ。
そして、本気で日野理論が重要だと思ってくれている人がいる、ということに勇気が湧く。

今回残念だったのは、写真を撮るのを忘れたことだ。
稽古に熱中しすぎてシャッターを切るのを忘れた。
しやないわな。

初の北アメリカ行きはテンヤワンヤだった。
まず、大阪から成田への飛行機が台風のせいで2時間遅れてしまった。
その前に、大阪に辿り着くのがやっとだった。
道場から駅までの国道が、台風12号で崩壊してしまったのだ。
これは仮の道路は出来たものの、現在でも復旧していない。
そんな大きな台風の後だから、飛行機が遅れても仕方が無い。
ただ、成田での乗り継ぎが2時間しかないので、そのことで焦った。
定刻の2時間遅れで飛び立った飛行機に、成田ではニューヨーク行きの飛行機は待機しており、事なきをえた。
J.F.K空港に到着、乗り継ぎに1時間30分。
それだけあれば、言葉が分からない私にも大丈夫だ。

現地時間22日午後4時40分、トロント空港に到着した。
しかし、ケネディ空港で乗り換えたAA航空の飛行機には驚いた。
荷物をバスのケース入れる様に、自分で入れるのだ。
飛行機に乗るためのタラップをバッグを転がす。
飛行機の入り口の横に何やらゲージがあり、そこに自分で入れるのだ。
飛行機はこれもバスの様に、4人掛け。1時間ほどだから、別段不足は無いが私で窮屈なのだから、大きな外国の人には狭すぎる。
しかし、この1時間が長い。
今までに、10数時間の航程があったからだ。
飛行機が飛び立つと同時にウトウト。
あっという間に、初めての北米大陸へ着地した。
入国手続きも簡単にすませトロントへ一歩。
高尾さんが待っていてくれた。
まず、ホテルにチェックインし、何と居酒屋へ飲みに。
日本の女将さん、日本人の店員。
「いらっしゃいませ!」
なんやこれ!日本やんけ。
味も日本。
高尾さんはちょくちょく来るそうだ。
今日は、ワークショップまで、市内をウロウロしようと言う事になっている。
観光するには、少し時間が足りないようだ。
ホテルも日本人スタッフがいるところを探してとってくれていた。
ゆったりと寝て、時差ぼけを多少なりとも解消した。

初日のワークが終了。
こじんまりと、かなり密度の高いワークになった。
参加者は多種多様だ。
何時もの武道のワークや、ダンスのワークならそれなりの人達が揃う。
しかし今回は違う。
主催者の関係の鍼灸師や整体師。
小学校の校長に陸上選手、少林寺拳法、太極拳に中国拳法……。
例によって胸骨操作から始めた。
参加者が多様だから抽象度を引き上げる。
ワークのスタートと同時に、そんなことが頭をグルグルと回る。

一つの動きを指示する度に、質問をする人がいた。
これはどこでも同じだ。
よく聞くと質問ではなく、自分の意見だ。
最初は丁寧に答え、それを通訳してくれていたが、通訳の人が思わず「一寸私が話をしてもいいですか」と、その人に色々と話してくれた。
きっと、言葉は通じただろう。
しかし、その人には届かなかったようだ。
その後も何度も繰り返して意見をいっていたからだ。
初日だから抑えた。
そんなこともありながら、和気藹々とした時間だった。
休憩を取り煙草を一服。
寒そうだが、太陽が当たるところは半そでのTシャツで十分だ。
さすがにカナダ。
公園が沢山ある。
丁度目の前にも公園だ。
リスがウロウロしている。
なんとも穏やかな時間が過ぎていく。

明日は、午前10時スタートだ。

今日のトロントは土砂降りだ。
体感温度は相当低いだろう。
長袖Tシャツと風除けのジャンパーでは一寸寒い。
昼食は何が良いと聞かれたので、わざわざピザをリクエストした。
車で相当回ったが、目指す店は残念ながら夕方からだった。
仕方なく、適当に入ってピザを食べてみた。
???が付くくらい不味かった。

二日目終了。
今日は長かった。
朝10時スタートの夕方6時まで。
もちろん、昼休みを挟んでいるが、稽古が難しくなると煮詰まってくる。
それは、日本のワークショップやセミナーと同じだ。
ねじれを稽古している時、一人の男性がポツンと「ねじれは身体を知る為の道具なのですね」と言った。
私は驚いて思わず「そうだ!」と言って、親指を立てた。
この種の言葉は初めて耳にする。
その感性は素晴らしい。
別れ際「痛みをありがとう」とも。
誰でも痛みは嫌いだが、特に外国の人達は嫌いだ。
ダンサーとなると毛嫌いする。
しかし、刺激が身体にとって唯一の実感法で、それ以外に身体を脳に認知させる方法は無い。
そのことをずっと話しているので、この言葉になったのだ。
これらの言葉の出所は、やはり言葉文化の国だからだ。
どんな言葉を使えば良いのか、そんなことを子供の頃から教育されている。
その結果、とんでもなく素晴らしい言葉に出会う。
しかし、所詮言葉だけであって実際ではない。
その言葉を超えて実際に出来なければ、実際に感じなければ意味が無い。
私のワークは意識への挑戦なのだ。
明日は3日目。
そして最終日。
それを思うと、飛行時間は余りにも長い。

三日目終了
昨日に続いて、トロントは快晴だ。
10時から午後6時まであるワークショップは、実は受講者にとっては苦痛になる。
いくら一日の時間が長くても、ちょっとやそっとでは出来ないことばかりだからだ。
今日は小学校の校長は、長男10歳と一緒に参加した。
身体の不思議を色々と体験させてみようと試みた。
「子供でも大人を倒せることが出来るのだよ」と、様々な無意識的な身体の働きを見せた。
みんな、目を丸くし嬉々として取り組んでいた。
大方の人は、身体の事は何でも知っていると、知らず知らずの内に思い込んでいる。
だから、それをひっくり返す。
身体を舐めるな!
校長は女性で、元新体操の選手だったそうだ。
長男は器械体操をやっている。
だから胸骨から動く、というのはほんとに新鮮だったようだ。
校長は学校以外にもリズム体操の教室を持っている。
私に「一年分のカリキュラムが出来た、ありがとう」と言っていた。
自分の意見だけを話す女性は3日目にして言わなくなった。
よく聞けば、彼女はフランス人だった。
「是非近いうちに、またカナダに教えに来て下さい」
みんなから言われ、別れを惜しみながら終了。

一息ついて初日行った居酒屋で打ち上げだ。
主催者の友達の鍼灸師も一緒に打ち上げて乾杯!
次はもっと大きくしようと誓い合う。
その為には、知名度が必要だ。
とにかく急いで本を書き英訳する。
その為に一役買ってくれる人も見つかった。

とにかく固定観念に気付き、それを破らなければ駄目。
そんな楽しい話にお酒もまわる。
時差ボケもてつだい、一瞬落ちる。
明日は帰国。
朝5時に迎えに来てくれることになっている。


朝9時トロントからシカゴへ、そして、乗り継いで成田。
シカゴでの乗り継ぎは50分しかなかった。
トロントからの飛行機が少し遅れて到着したので、スチュアーデスにゲートを聞き即ダッシュ。
ゲートまで相当距離があったので、思い切り走る。
ゲートに着くと、何故か乗客が少ない。
航空会社のカウンターにチケットを表示し、間違っていないか聞く。
カウンターの女性は、間違いないという。
?????
カウンターの後ろに時計がかかっていたので見た。
「あれっ」
実は時差があったのだ。
トロントとシカゴに時差が1時間あった。
なんのこっちゃ!

しかし、トロントからシカゴへの手荷物検査は傑作だった。
私のライターが引っ掛かったのだ。
ライターは駄目だと言う。
「1個は手持ちで良いのだろう」
というと駄目の一点張り。
頭に来て、
「じゃあ俺はどこから来たんだ?JFK空港で乗り継いでトロントに入ったんだ。 どうしてその時は通過出来て、今は駄目なんだ」
アホかボケ。
「いやどうしても駄目なんだ」
「訳分からん」
「ガスが駄目なのか」
「そうだ」
「じゃあ、ここでガスが切れるまで燃やせばいいんじゃないか」
「それは危険だから駄目だ」
「はぁ〜、ここのどこが燃えるんだ?ガスでも充満しているのか?何をいうとんねんボケたれ」
こうなったら逮捕覚悟じゃ!
「おかしいやんけお前ら!」
ぶちきれた!
挙句の果ては捨てろという。
「何でほらなあかんねんボケが」
手荷物検査場で裸足で怒鳴りまくった。
係りの男が次から次へと変わる。
私をなだめる為だ。
結局スーツケースの中に入れれば良いという。
それもおかしいやろ。
スーツケースの中には入れたら駄目だという規則があるのに。
それだったら、規則と言わないやろ!
結局、気の弱そうな中国系の係官が謝りに来て落着…せなしやない。
もう一度外に出て、ライターをケースに入れ出国審査を受けなければいけないことになった。
俺が外に出る、と通路のところで係りのおばはんに言うと、ゴミ箱に捨てろと言う。
アホか、どこの世界にダンヒルのライターをゴミ箱に捨てるボケがおるんや。
外に出てケースに入れなおすと200ドルかかるとも言った。
ほんまか?
とにかく外に出て、出国審査を受けなおした。
そんなすったもんだで、土産を買う暇もなかった。
メイプルシロップくらいは買いたいと思っていたのに。

今回の北アメリカは最初からテンヤワンヤだった。
出だしがそれだったときは、必ず旅程中何かが起こる。
それは今までもそうだったから。
まあ、外国に旅をするというのはそういうことや。
予期せぬことが起こるということ。
それをいかに楽しむかに尽きる。

そういえば、トロントで耳にしたことで興味深い話があった。
それは、何と学校の運動場には、大きな垂れ幕で「走るな!」と書いてあるという。
その理由は、トロントでもモンスターペアレンツがいて、子供が運動場で走って怪我をした事が、学校の責任だと訴訟を起こしたからだという。
どうも先進国と言われている国では、どこも同じような現象が起こっているようだ。
また、カナダでは子供が訴訟を起こせるのだという。
もちろん、その背景には、児童虐待ということがあり、そこから派生したものだ。
しかし、その法律には児童虐待に限り、という文言が入っていない為、どんなことでも子供が訴訟できるという。
今では、それを利用する子供達が現れており、この先どんなことになっていくのか想像すると恐い。

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