「身体の見える舞台を」

神戸で初めてのワークショップを終えた。
主催者である dancebox が神戸市に依頼され、今回のワークショップが実現したのだ。
今回は、 forsythe company の若手ヤニスも WS に参加するために来日した。
ヤニスの参加で、参加するダンサーたちの意識が少しでも成長すれば、という期待があった。
しかし、これは無理なことだった。
そもそも、プロという意識を持たない人が殆どだからだ。
いくら舞台の数を沢山踏んでいようが、意識として、自覚として「私はプロだ」というものを持っていなければ、プロフェショナルから影響を受けようが無い。
影響を受けなければならない要素自体分からないし、知らないからだ。
当然、精々「動きが違う」というような漠然とした印象を持つくらいが関の山だ。
結果、その通りだった。
これは、まだまだ日本のダンス界は、総じてアマチュアだということ、まだ、発展途上だということだが、それは仕方がない。
何しろ、プロのカンパニーは新潟にあるノイズムただ一つなのだから。
ただ、ヤニスと終始稽古を共にした、佐藤健大郎は良い稽古をした。
結果、自分の欠点も知っただろうし、優れている点も知ったからだ。
打ち上げの最後に、
「きっと来年も『春塾』を開くだろうけど、今の調子なら、つまり、 4 回のワークショップで何一つ質は成長していないのだから、このメンバーはオーディションを受けても合格させない」
と宣言した。
もっと、勢いの良い人が育つか、出てきて欲しいからだ。
このワークショップの期間中、ずっとヤニスと共にしている。
彼は、もっと文化を交流させたい、そして、ミックスし今あるダンスとは、全く違うダンスを作りたいという希望を持っていることが分かった。
そして、そのキーワードが、私の指導する武道だとしているのだ。
それは、西洋のダンスシーンには無い、 connect が一番大事な要素としてあるからだと言う。
もちろん、武道の無駄の無い動き、それは、装飾だらけの西洋のダンスではない動き、つまり、身体が connect された動きが、もう一つの重要な要素としてあるからでもある。
その意味で、私の日野理論を今回集中的に学びに来たのだ。
過去私の理論を学ぶと意識した人は 3 人目で、ダンスでは初めてだ。
それ以外の人の殆どは、現象としての「動き」を求めているに過ぎない。
しかし、現象は目まぐるしく変化するし、変化させる。
だから、みんな諦めて去っていく。
大切なのは、理論だ。
それは、どうとでも自分なりに料理することが出来るからだし、そうして欲しいと思うから、皆に伝えているのだが。
その理論を、身体を通して学んでいく、というのも、私の理論の特徴なのだ。
だからこそ、自分なりにどうとでも身体で料理が出来るのだ。

ショーケースそのものは、素晴らしい出来だった。
何よりも、ヤニスと佐藤とのデュオには、躍動感があり、情熱もそこにはあった。
これを見た観客は、きっとダンスを好きになったことだと思う。
「身体の見える舞台に」これが私のワークショップのテーマだ。
一般の人には「???」の言葉だろうと思う。
しかし、頭で作り出す動き、幻想だらけ、思い込みだらけの動きでは、実際に身体は見えてこないのだ。
この厳しい審美眼は武道だからこそ持ちえたものだ。
その要素をふんだんに使っているワークショップだ。
今回は、そういった意味でも成功の部類に入るだろう。
何しろ身体が舞台にあったからだ。

■ 2008/11/01 ( 土 ) ラーメン餃子でいこ

神戸で初のワークショップの幕が開いた。
少ない人数なので、逆に一つのことを丁寧に取り組むことが出来た。
表現塾では、「手を引く」をメインに行った。
二人でやっているのが見えるか、をテーマにして稽古をした。
グループに分れ、駄目だしをし、どうすればそうなるかを工夫した。
そこで、どのカップルがベストカップルかを、グループごとに選び、他のグループの前でやり、ジャッジしてもらうというのをした。
世界広しと言えども、フォーサイスカンパニーのダンサーに駄目だしをするワークショップは、きっと私の所だけだろう。
ヤニスも楽しそうに、大はしゃぎでその駄目出しを受けていた。
わかるだろうか。
遥かにレベルの高いワークだから、世界レベルのダンサーと並列に並んで稽古が出来るということを。
ショーケースに出るのを楽しみにしているのだから、本当に楽しんでいる。
オーディションもそうだが、ワークに来れなかった人は、本当に残念でした。

■ 2008/11/02 ( 日 ) ナスの天ぷら生醤油うどんで

「ほんなら俺は、きつねうどんや」
「昼ごはん何にする」
「何でもいい」
「よし、じゃあ、今日はうどんだ」
「ナスの天ぷら生醤油うどんにする」

ヤニスは相当疲れてきたようだ。
いくら若いとはいえ、 12 時間飛行機に乗り、 2 日しか空けず、朝 11 時 30 分から夜 9 時までのワークショップは疲れると思う。
しかも、ワークショップは、フォーサイスカンパニーでのものとは違い、一つ一つを丁寧に時間をかけてやるから、ヤニスといえど、そうとうな集中力を必要とする。
しかし、不思議なのは、それに引き換え日本のダンサー達は、ニコニコする余裕がある。
どうして?
ヤニスがいい例え話を出していた。
ヤニスは料理をするのが好きで、皆から上手だと言われる。
しかし、プロフェショナルの料理人と比較できないレベルだ。
プロとアマでは、アマが想像できない要素が必要だと。
やはり、身も心もアマチュアなのか。
カルチャーセンターのノリなのか。
だから、一つのテーマーを指示しても、取り組み方も取り組んでいる内容も、ヤニスと皆とでは全く違う。その違いを体感できたら良いと思ったのだが、果たしてどうなのだろう。

ヤニスは私のワークは、本当に難しく高度だという。
日本の皆は難しいという。
しかし、その難しいの中味はまるで違う。
ということも、分って欲しいのだが。
今日のメインは「流れに乗る」だ。
もちろん、言葉では誰でも分る。
しかし、動きを見ていてその流れを感じ取れるのか、といえば、……。

私は「手で押したり、身体操作でやっているのではなく、相手の流れを掴み乗るのだ」という。
では「流れ」とは一体どんなことなのか。
先ずはそれを探らなければならない。とにかく、言葉は具体的にどういうことかを探らなければならないのだ。
そこに時間を費やして欲しい。
優秀な大工は、持ち時間の 8 割は、道具の手入れに使う。
だから、切れ味よく的確に作業が出来ていくのだ。

■ 2008/11/04 ( 火 ) 島ラッキョウの天ぷら一番!

「ゴーヤチャンプルの肉抜きで」
「島ラッキョウの天ぷら、これが無茶苦茶うまかったんや」
琉球料理と書かれてある店に。
昨日は、店の前まで来たが、何だか分らない若者がギターを持ち、歌を歌っていたので、入るのを辞めた。
ワークショップで疲れているのに、歌を聴いて疲れるのが嫌だからだ。
注文した品物は全部美味しかった。
この店を選んで正解だった。
オリオンビールで乾杯。
今日から、ショーケースの準備に入った。
さすがにヤニス。
何から何までさすが。
ショーケースの振り付けなど、本当に一瞬で覚えてしまう。
直ぐに身体の使い方に徹底的に取り組んでいく。
「ダンスではないから難しい」
を連発。
身体使いを一通り通したら、次はリバースだ。
瞬く間にこなし。
とにかく動きの中味作りに時間をかけていく。
ヤニスと組んでいる佐藤健大郎が、どんどん進化していくのを、見ていても面白い。
これなら客に観せることが出来る。
一通り、みんなヤニスと組んでみた。
果たして、何をどれだけ吸収できたのか、あるいは、吸収できなくても違いを感じられたのか。
今回のショーケースは、本当にショーケースになるかもしれない。
ただ、オーディションのレベルは、果てしなく高くなるはずだ。

■ 2008/11/05 ( 水 ) 島ラッキョウ再び

ショーケースの稽古に入っている。
シゲやんが「全然違うものをしているようです」とポツリ。
つまり、ショーケースでは同じテーマのことをしているのに、まったく別のものをしているようだと感じたのだ。
ヤニスと組んだ時、ヤニスの指示やアドバイスが全く違うからだという。
「私たちの取り組み方が余りにも浅かったということですね」と。
その通り。
私の基準はヤニスだ。
だから、高級なことを求めているのだが、それに気付かなかっただけだ。
ヤニスはどんどん深いところを学んでいく。
私もそれが面白いから、どんどん深い要求をする。
今日の昼からのワークの時、ヤニスは何か深いことを掴んだ。
「あああ〜私のダンス人生は何だったのだ」と大はしゃぎをするヤニス。
そういう取り組み方は、観ていて本当に面白い。
ワークの時にも話したことだが、折角ヤニスが来ているのに、どうして皆はヤニスの取り組み方をみないのだ、と。
観ているだけで勉強になる。
なぜなら、全員同じテーマをしているのだから、それなら一番優秀な人のやっていることを観るだけでも勉強になる。
自分の頭で、ヤニスのレベルになるのは不可能だ。
舞台体験の数が圧倒的に違う。
にもかかわらず、皆は黙々と自分の組んだ相手と、自分のやることに熱中してしまっている。
それでは、上達するものもしない。
手本あっての基礎作りだ。
どうして、自分のやることに熱中してしまうのだろう。
また、どうして、曖昧な感覚しか育っていないのに相手にアドバイスをするのだろう。
見よう見まねという、モノ習いの基本を教育されていない結果だ。
それを知ったのなら、直ぐにすべし。

■ 2008/11/06 ( 木 ) 再びお好み焼き

「神戸初日に食べたものを食べたい」ヤニスが言い出した。
ヤニスは料理が好きで、その店は料理をしているところが見えるから行きたい、というのもある。
醤油味が好きなので、そのネギ焼きを食べたいのもある。
「こんばんは!」我々が店に入るとすぐに、ほとんど満席になった。

ほとんど何も決められないまま、明日が最後の稽古だ。
明日中には、ショーケースの段取りを決めておかなければならない。
ヤニスが動くのと、皆が動くのでは全く違うので、絡ませるわけにはいかない。
そうかと言っても、絡まないわけにはいかない。
ショーケースなのだから。
ヤニスは一貫して、身体はどこからどう動くのか、をショーケースの為の振り付けから感じ取ろうとしているが、皆は動きだけにしか着目されていない。
いわゆる、正しいのか間違っているのかだけだ。
正誤を求める姿は同じだが、いわゆる日野理論にそっているかいないかの正誤を求めているので、全く違う。
身体塾では、定番の胸骨操作、ねじれ、連動、その三点であり、それの発展系だ。
つまり、それ以外で私の提示する動きは、全てこの三点で作られているということだ。
であれば、どんな動きでもその理論にそって行わなければ意味がない。
いきなり、日常の自分の動きやクセの動きになってしまうのは何故だ。
逆に、どうしてヤニスはきちんと、その日野理論通りのことをするのか。
そして、どんどん質問してくるのは何故だ。
当然ヤニスは、日野理論を学びに来ているのだからだ。
逆に、多くの日本の人達は、現象としての動きをしているに過ぎない。
それは積み重ねることが出来るのか。
ヤニスは表情まで歪めて身体の隅々を検索しているのに、呑気な顔をして現象だけを気分よく追い求めている姿は気持ち悪くさえある。

■ 2008/11/08 ( 土 ) ショーケースの予約

リハーサルは無事終了。
大体の大筋は出来た。
明日は、細部の点検だ。
照明の打ち合わせも終了。
照明の人が「あの凄い外国の人は誰」と、会場に入ってきたとたんに言った。
「フォーサイスカンパニーのヤニスやで」
「ええ、フォーサイスカンパニーの」
「そうや」
照明打ち合わせのため、ラフで通した。
「絶対に観なければ駄目ですね」
「そうや、これを観なくて何を観るねん。観ていて躍動するやろ。これがダンスや」
頭を使うのではなく、身体を使え。
ワークショップで何回話をしたかしれない。
しかし、どうも意味を分っていないようだった。
やはり、形しか見えないし、形しか追いかけない。
「嬉しそうやろ。身体が動いている喜びが見えるし、感じるやろ。これをダンスと言わずして、何というんや」
フェイクの動きやクセの動きはいらない。
早くそこから抜け出したい、とヤニス。
それくらい燃えているヤニスの動きは、ダンスを知らない人、嫌いな人、コンテンポラリーダンスを嫌いな人。
そんな人にこそ見てほしい。
きっとダンスを好きになるから。
きっとダンスを楽しいものだと思えるから。

■ 2008/11/09 ( 日 ) 振り付け家エミオ・グレコの

いよいよ明日は本番。
ただ、マチネだけに、少し強行だ。
1 回のショーケースでは納得がいかない、という希望が前回の「春塾」で出ていたので、今回は 2 回にした。
場所の関係で、 2 日に渡って取ることが出来なかった。
都合上、 1 日 2 回、しかも日曜日という、色々な意味で最悪のコンディションで行うことになってしまった。
最終リハは、文字通り最終リハになった。
つまり、今回は絞り込むことを念頭においたから、複雑なフォーメーションがない分、個々の作業に集中できたからだ。
ヤニスたちは、最後まで身体のチェックに励んでいた。
相変わらず慌しいワークショップだったが、そんな中で嬉しい情報が一つ飛び込んできた。
東京でのワークに参加していたダンサーの一人は、オランダの振り付け家であるエミオ・グレコのカンパニーに所属していた。
帰国間際に「絶対日野さんをオランダに招待するようにしますから」と言ってくれていた。
それが来春早々に実現したのだ。
ヤニスをはじめ、フォーサイスカンパニーのフランチェスカなども、そのカンパニーに沢山の友達がいるという。
スケジュールが合えば、みんな私のワークに参加する。
本当にヨーロッパというのは、国々が近いのだなあ、と改めて感じた。
ヤニスがアシスタントをしてくれるという。
現時点では、私の理論を最も理解してくれている一人だから、これほど心強いことはない。
というのを忘れて、明日の本番。
9 時にモーニングサービスの卵サンド。
ヤニスがえらく気に入っている。
10 時にはスタジオ入りだ。
ヤニスの本番は、もっともっともっとダイナミックに動くから、本当に面白いことになると思う。

■ 2008/11/10 ( 月 ) 本番終了

ラフゲネを終え、最終手直し。
ヤニスがワークショップ初日重要なことを話していてた。
「一番大切なのはプロとしての意識だ」と。
アマチュアは身体が動くだの、足が上がるだの、出来るだの出来ないだの技術的なことだけにしか目がいかない。
しかし、プロは「見せ方」や舞台での空気の作り方など、表現というレベルで考え抜く。
それを 27 歳のヤニスは語ったのだ。
ワークの最中でも、プロとして取り組んでいるヤニスと、やはりアマチュアの日本人ダンサーとの違いは、果てしなく離れていた。
もちろん、それは百も承知で、その日本のダンサー達に、プロのダンサーのヤニスの取り組み方を知り、見て学んで欲しかったのだ。
本番は、ミクシーでの呼びかけや、出演者の呼びかけも功を奏し、 2 回とも予想を上回るお客さんが来てくれた。
1 回目の本番が終わり、ロビーに出て行くと東京から来てくれた人や、画家の寺門さんが待っていてくれた。
「どうじゃ!」
というと、
「凄かった、これは東京へ持っていって、もっと沢山の人に見せなければ駄目でしょう」と、嬉しい感想を言ってくれた。
もちろん、ヤニスの凄さもさることながら、佐藤健大郎の急成長ぶりもあったからだ。
1 部は、例によって身体を目まぐるしく動かす中でのコネクト。
2 部は正面向かい合いでのコネクトだ。
毎回のショーケースと 1 部は弱冠のマイナーチェンジをし、より単純な構成にした。
2 部は殆ど同じ。
しかし、こうも違うのか、という舞台だった。
たった一人トッププロが入るだけで、より完成度が上がって見えた。
今回ワークショップに参加した人。
そして、ショーケースに一緒に出られた人は本当に幸運だった。
1 回目のショーイングが終わってからの反省会で、ヤニスが先頭に立ち色々なアドバイスをしてくれた。
世界のトッププロから舞台のノウハウを学べたのだから。
そのお陰で 2 回目のショーイングは、別の作品のように変化した。
もちろん、良くなったのだ。
1 部のプログラムが終わり、暗転になる。
その時、ヤニスも佐藤健大郎も立ち上がれなかったと言っていた。
それくらい、出し切れたのだ。
今回この舞台を観れた人達は、本当に幸運だった。
たまたまワークショップの時期と、ヤニスの来日が重なったから実現しただけで、本当に偶然だったからだ。
もちろん、マーツやエイミー等も来日するが、ワークショップと重なるかどうかは分らない。
多分二度とない舞台だったのだ。

ワークショップに参加した人たちは、ヤニスの動きを見た。
しかし、そこで何を感じたのかが問題だ。
全てのヤニスの動きは、躍動感がある。
それは紛れも無く、「身体を動かすのが大好きだ」ということの表れであって、それ以外の何ものでもない。
だから、見ている人間も、思わず身体を動かしたくなるのだ。
そんな舞台を見たことが無い。

ヤニスといると、ずっと練習をしていることになる。
その「狂気」が、有るのか無いのか、そこだけが成長するのか、しないのかの鍵なのだ。

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